はじめに
10年前に「band」シリーズを発表して以来、天然石を使ったジュエリーをずっと作り続けてきました。
誕生石も、全12ヶ月分を使用したアイテムをこれまで何度も展開してきました。
ただ、「band」シリーズでは、すべて共通の“溝”に石をはめ込むという構造を使っていて、石そのものは一点ものがほとんど。サイズや色、表情の異なる天然石を、その都度ひとつずつ合わせながら作っています。
そんな中で、ずっと頭の中にあったのが
「同じサイズ・同じ規格の誕生石12ヶ月分で、シリーズを作ってみたい」
という思いでした。
そもそも誕生石って?
「誕生石」という言葉は、よく耳にすると思いますが、改めて説明すると、1月から12月までの各月に割り当てられている天然石のことです。
誕生日プレゼントや記念日の贈り物としても選びやすくて、「どの石が似合うかな?」と迷ったときにも、誕生石という軸があるだけで、ひとつ選ぶ理由になります。
「なんとなくその月の石を身につけている」というだけでも、ちょっとパーソナルな意味が加わる。それが誕生石のいいところだなと思います。
日本では、一般社団法人日本ジュエリー協会が定めた「日本の誕生石」がよく知られていて、月ごとにこんな石が選ばれています:
- 1月|ガーネット
- 2月|アメシスト
- 3月|アクアマリン
- 4月|ダイヤモンド
- 5月|エメラルド
- 6月|ムーンストーン/パール
- 7月|ルビー
- 8月|ペリドット
- 9月|サファイア
- 10月|オパール/トルマリン
- 11月|トパーズ/シトリン
- 12月|ターコイズ/タンザナイト
そして2021年には、なんと約60年ぶりにこのリストが改訂されて、3月にはブラッドストーン、6月にはアレキサンドライト、12月にはジルコンなどが加わりました。
「それって誰が決めてるの?」と思わなくもないですが、選択肢が増えたことで、より自由に、自分らしい石を選べるようになった気がします。

SPOTシリーズでは、そんな“誕生石”という誰にとっても身近な素材を入り口に、シンプルだけどちょっと見たことのないようなジュエリーを目指しました。
どうやったら“ありふれた”を抜け出せるか
デザインを考えるときにまず大切にしているのは、ブランドのコンセプトでもある「少しお手本からずれた」という視点です。
今回使った石は、直径2.5mmと3mmのラウンドカットという非常に一般的な規格サイズ。
これを普通に爪や覆輪で留めてしまえば、それこそ世の中に山ほどあるようなジュエリーになってしまう。素材がシンプルだからこそ、デザインでどう“ずらす”かが重要でした。
僕が目指したのは、奇をてらわず、無理やり変わったことをするのではなく、自然な中に違和感が宿るようなデザイン。
シンプルな素材で、「あれ、なんか違う」と思ってもらえるようなものをどう生み出すか。その答えがなかなか見つからず、長い間考え続けていました。
店の天井からのヒント
そんな中でふと思い出したのが、店舗の内装で使った照明のデザインです。
天井に使ったダウンライトは、できるだけフレームが見えないようにしてあって、穴の奥からそっと光源が浮かんでいるように見えるタイプのものを選びました。
この“奥にある光”という感覚を、ジュエリーの中で表現できないかと考え始めて、たどり着いたのが、石をあえて枠の奥にセットするというアイデアでした。

焦点の合わない美しさ
奥に配置された石は、周囲の鏡面に磨かれた金属に光を反射しながら、不思議な存在感を放ちます。 まるでスポットライトを覗き込んだときのように、石に焦点が合わない。でも確かにそこにある。その視覚的なズレが、このデザインの主軸になっています。
石の留め方にも工夫があります。 一般的には、表側から金属を倒して石を留めますが、今回は裏側から石を留めるという、あまり使われない手法を採用しました。


3つのアイテム、それぞれの仕掛け
SPOTシリーズは、スタッズピアス3種類、リング、ネックレス、イヤカフがあります。
◯ ピアス
角度によってはただの金属の筒に見えますが、視線が変わると奥から小さな石がふっと光るように見える仕掛けになっています。つけている本人より、周囲の人がその“違和感”に気づくようなデザインです。

◯ リング
こちらも角度によって表情が変わります。かなり華奢なアームなので、重ねづけにもぴったり。たとえば、自分の誕生石と誰かの誕生石を一緒に身につける、そんな楽しみ方にも合うように作っています。

◯ ネックレス
吊られたライトをイメージして、チャームとチェーンをつなぐ丸カンをなくし、筒状のチャームの底に掘ったスリットにチェーンを直接通しています。そのことで、チャームとチェーンが一体化したような印象に仕上がっています。

どのアイテムも、「誕生石」という誰にとっても身近な存在をきっかけにしながら、見たことがないのに、どこか馴染む。
そんなバランスを大切にしてデザインしました。
誕生日のプレゼントに。自分へのご褒美に。ちょっとした節目に。
SPOTが、そんなときの選択肢になればと思っています。
